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【必見】mRNAワクチン接種後の精子量について論文が出ましたよってお話

こんにちは!そらです!

少しブログに間隔が空いてしまいました。ゆるゆると書き進めていきます。

ご時世がらどうしてもコロナウイルス関連の記事が多くなってしまいます。

 今回は特に若い男性必見の内容となります。

精子コロナウイルス、ワクチンの関係についてです。

 

 

目次

 

COVID-19と不妊について

そもそもCOVID-19と精子の減少についてはいくつか報告があります。ウイルス感染と乏精子症の関連ではおたふくかぜ(ムンプスウイルス)が有名ですが、COVID-19も同様に関連している可能性が示唆されます。

 

COVID-19から回復した平均30日後に採取された精液の分析したところ、8名(18.6%)が無精子症、3名が200万/mL以下(7.0%)の乏精子で、全体では25.6%の患者が乏精子でした。

(Semen impairment and occurrence of SARS-CoV-2 virus in semen after recovery from COVID-19  M. Gacci et al. Human Reproduction, Volume 36, Issue 6, June 2021)

 

COVID-19と診断された男性患者84人と比較対象となる健常者105人を対象に、精液中のACE2活性、炎症および酸化ストレスのマーカー、精液を10日間隔で評価し、最大で60日間の追跡調査を行いました。新型コロナ患者では、精液中のACE2活性、炎症および酸化ストレスのマーカーが明らかに高く、精液量、運動性、精子濃度、精子数が低下していました。

(COVID-19 and male reproductive function: a prospective, longitudinal cohort study Behzad H.M. et al. Rproduction, Volume 163, Issue 3, Mar 2021)

 

mRNAワクチン接種と精子について

 これまでの研究でmRNAワクチンと精子の関連について報告はありませんでした。作用機序を考えるとウイルスを接種しているわけではないので関連はなさそうと推測することはできます。そこで今回新しく下の論文がJAMAから発表されました。

 

Sperm Parameters Before and After COVID-19 mRNA Vaccination

Daniel C.G. et al. JAMA June 17, 2021 doi:10.1001/jama.2021.9976

タイトルにあるようにワクチン接種前後での精子量について比較した論文です。

それでは内容にいってみましょう!

 

Sperm Parameters Before and After COVID-19 mRNA Vaccination

 

Background 

mRNAワクチンには高い感染予防効果があり、副反応はほとんどないにも関わらずアメリカでは56%の方しか接種を希望する方がいないようです。その原因としてSARS-Cov2感染は精子量を減少させるという報告はあるが、ワクチンの生殖器に関する反応の評価がなされていないことが一つの理由です。そこでワクチン接種前後で精子量を比較したのがこの研究になります。

 

Method

マイアミ大学掲示されたポスターやメーリングリストで呼びかけ、ワクチン接種を予定している健康な18~50歳の男性を対象としています。

参加者は事前に不妊症がないことをスクリーニング検査で確認し、過去90日以内にCOVID-19の症状を認めた方や検査で陽性となった方は除外しています。

参加者は2~7日間の禁欲後した後に1回目の接種前と2回目の接種から約70日後精子を提出しています。

精子の分析はWHOのガイドラインに基づき精液量、精子濃度、精子運動性、全運動精子数(TMSC)が測定されました。

 

Result

参加者のBackgroundは以下の通りです。

  • 45人の男性(median 28歳(IQR 25-31))が参加
  • 追跡期間は2回目接種から75日(IQR 76-81)
  • 接種前の禁欲期間は2.8日(IQR 2-3)、接種後の禁欲期間は3日(IQR 3-4)
  • 21人はファイザー社、24人はモデルナ社のワクチンを接種

以下はその結果になります。

  • ベースラインの精子濃度は2600万/mL (IQR 19.5-34)、TMSCは3600万(IQR 1800万-5100万)
  • 2回目接種後の精子濃度3000万/mL (IQR 21.5-40.5; P = .02)、TMSCは4400万(IQR 27.5-98; P = .001)
  • 精子量や精子運動性も有意に増加していた

 

Discussion

 健康な男性において少人数コホート研究では精子のどの項目に関しても減少していませんでした。そもそもワクチンはmRNAであり生きたウイルスではないので、精子に影響する可能性は低いと考えます。接種後に増加した項目があるのは禁欲期間が長いのが影響している可能性はあります。少人数で追跡期間も短いので完全な生殖機能のフォローアップはできませんが、この研究では精子のライフサイクル全てを網羅しています。

 

不妊にならないために

Discussionにも記載がありましたが、ワクチンの作用機序を考えると生殖器に影響するとは考えにくく不妊と関連がないことは予想できます。しかし実際にデータとして示されるとより安心材料になりますね。参加者数が少ないのが難点ですが少なくともワクチンと乏精子症との関連はなさそうです。一方でCOVID-19に感染すると乏精子症になってしまう可能性もあり不妊対策・少子化対策としてもワクチン接種が望ましいのではないでしょうか。

コロナウイルスについても、ワクチンについても長期的な予後は誰にも分かりません。 現時点ではCOVID-19感染後に少なからず後遺症が残ってしまう方も存在しています。現時点でのCOVID-19感染症や後遺症に対しての治療法はなく、予防のためには感染しないことが唯一の対策となります。 一方で今回のmRNAワクチンはワクチンのシステムとしては新しいものの、mRNAという既知の物質を核として成り立っています。mRNAは体内で速やかに代謝され分解されること、mRNAからDNAには人の体には存在しない逆転写酵素が必要であることなど既に判明していることもあります。作用機序から考えると長期的に影響する可能性が低いことが予想できます。

明日からは緊急事態宣言が解除となります。感染者が増えていかないといいのですが。個人的にはワクチンを接種した人から順に自由な生活が過ごせるようになると摂取率も向上し集団免疫の獲得につながると考えるのですが、なかなかそうもいかないですよね。そらもワクチン業務に携わり皆様の免疫獲得のお手伝いをさせていただいているので収束を祈るばかりです。